2006年9月1日金曜日

アメリカ野球の不安

フィラデルフィア・フィリーズのライアン・ハワードは、今季ナショナル・リーグの本塁打・打点両部門でトップを走っている。今夜のワシントン・ナショナルズ戦では49号を打って、あのマイク・シュミットが持っていたチーム記録を塗り替えてしまった。このまま行けば、年間60本塁打達成も決して夢ではなくなってきた。そして二冠王を獲得すれば、リーグMVPの有力候補にもなるであろう。

ハワードは1979年生まれ、今年の11月で27歳の誕生日を迎える。このまま伸びれば将来のホール・オブ・フェイマー(殿堂入り選手)となりそうだが、実はハワード、ミズーリ州生まれのアメリカ人で、いわゆる黒人選手である。
ところが近年、アメリカではアフリカ系の子供たちが、野球選手への道を選ばず関係者を悩ませているのだ。
メジャーリーグで最初の黒人スターとなったのは言うまでもなく、元ブルックリン・ドジャースのジャッキー・ロビンソン。以来ウィリー・メイズやヘンリー・アーロン、そして現在のバリー・ボンズやケン・グリフィーJr.に至るまで、彼らはアメリカ野球の代名詞として君臨してきた。20世紀後半におけるメジャーリーグの魅力は、彼らが生み出してきたものが実に大きな部分を占めている。

ところが、今、アメリカ人の黒人選手で野球のスーパースターが減って来ている。ハワードや「Dトレイン」ことドントレル・ウィリスなどのヤングスターももちろんいるが、彼らはいまだ「野球内スター」に留まっている。NBAのレブロン・ジェームスや、NFLのスーパールーキーであるレジー・ブッシュ、ヴィンス・ヤングのような、競技の枠を超えたスーパースターとしての地位を獲得できるかどうかは、まだ分からない。黒人アスリートのトップクラスが野球ではなく、フットボールやバスケットボールを最終的に選択するのは、もはや当然のようになってきているのだ。

リトルリーグなど少年野球関係者にとってもこれは悩みの種のようで、たとえ野球をプレーしている子供でも、実際に憧れているのはマイケル・ジョーダンなど、他競技でのスタープレイヤー、というケースが多いようだ。アフリカ系の子にとっては、もはや野球はとっくの昔にナンバーワンスポーツではなくなっているのである。
アメリカの子供たちは一つの競技だけではなく、シーズンによって様々なスポーツをプレーする。だから春は野球で秋はフットボールの選手、という子供も多いのだが、逆に言えばそれだけ他競技へ「浮気」するのも容易なわけで、魅力を感じなければあっという間にその子は、野球をプレーすることを忘れてしまう。

ボー・ジャクソンやディオン・サンダースのように、複数の競技を掛け持ちしてプロでプレーする人もたまにはいるが、これはあくまでレアケース。プロになる段階で野球を選ばない子が増えれば、アメリカの野球界そのものの実力低下は顕著になるであろう。だから子供たちにいかにして野球の魅力を知ってもらい、シニアレベルにまで継続してプレーさせられるかどうか、これが大きな課題になってくる。野球を愛し野球を生涯の仕事とするコーチや関係者にとっても、これは決して容易な話ではない。

とはいえ、メジャーリーグ自体はカリブ海諸国をはじめ、世界中から良い選手が集まるから、黒人選手のスター自体は減っていない。国籍を超えて実力で評価される世界だから、直接の影響がすぐに出るというわけではないだろう。
しかし、メジャーの総本山であるアメリカの中で、アフリカ系の子供たちが野球をプレーしたがらないとしたら、やはりそれは様々な意味でマイナスの要素となりえる。トップアスリートの多数を占める彼らが、野球に魅力を感じずプレーしないということは、野球はもはや、アメリカでは最高のスポーツではない、という事をおのずから証明してしまうことになる。
メジャー版「レブロン」は、果たして21世紀のアメリカで誕生するのであろうか。
 
2006年09月01日08:32

mixi
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